📌 この記事でわかること
- 発達障害の子にとって、電車・待合室・お店がつらい理由
- 見通し・時間帯・逃げ道——外出を少しラクにする事前の工夫
- 周囲の目との折り合いと、「あんなに大変だった子も落ち着く」という希望
子どもと出かけるだけで、どうしてこんなに疲れるんだろう。
電車、バス、病院の待合室、スーパー、外食。発達障害の子を育てていると、世の中の「ふつうの外出」の全部が、ちょっとした遠征になります。ASDの次男が幼かった頃、私は出かける前からすでに疲れていました。今日は無事に帰ってこられるだろうか、と。
この記事では、わが家がいちばん消耗していた「公共の場」のことと、少しずつ見つけた工夫、そしてその先にあった希望を書きます。
🚃 いちばんしんどかった日——電車の1時間
忘れられない日があります。次男が幼かった頃、電車で1時間ほどの移動中に、パニックが起きました。
泣き叫ぶ子ども。走行中の電車。途中で降りても、そこから帰れるわけじゃない。あやしても、理屈は届かない。逃げ場のない箱の中で、私は次男を抱きしめながら、視線を浴び続けました。
あのとき私の頭にあったのは、「うるさくしてすみません」よりもっと重たいものでした。——虐待だと思われていないだろうか。泣き叫ぶ子を必死で抱えるこの姿が、周りにはどう見えているんだろうか。その恐怖と戦いながら、私は半ば「無」になって、1時間を乗り切りました。
あの日の対応が正解だったとは思いません。ただ、あのときの私は、あれが精一杯でした。同じような時間を過ごしたことのある方に、まず伝えたいです。あの必死さは、あなたの育て方の失敗なんかじゃありません。
🌀 なぜ、公共の場はこんなに苦手なのか
次男を見ていて分かった理由は、こうです。
そしてもうひとつ、親が「見られている」と感じていることも、しんどさを倍にします。子どもが泣いている理由を説明できないまま、周りの視線だけが集まる。あのとき私が消耗していたのは、次男の対応そのものより、説明できない後ろめたさを抱えたまま人前に立っている時間だったと思います。子どもの困りごとと、親の緊張。この2つが同時に来るのが、公共の場のいちばんきついところでした。
公共の場は、見通しが立たない場所。電車がいつ着くのか、診察がいつ呼ばれるのか、あの子には分からない。終わりの見えない「待つ」は、大人が思う何倍も長い。
そして、刺激が多い場所。音、光、人混み、アナウンス。感覚が敏感な子には、座っているだけで削られていく環境です。
さらに、逃げられない場所。走行中の電車、順番待ちの列。しんどくなっても、その場を離れられない。スーパーで手を振り払って走り出していた次男は、今思えば、あの刺激の海から逃げていたのかもしれません。追いかける私は毎回必死で、買い物どころではなかったけれど。
🗺️ 事前の工夫で、外出は少しラクになる

失敗を重ねながら、わが家に定着した工夫があります。
見通しを先に渡す。「電車に乗って、3つ目の駅で降りるよ」「病院で待って、先生とお話して、帰るよ」。出かける前に流れを短く伝えておくだけで、次男の落ち着きが違いました。
すいている時間を選ぶ。同じ場所でも、混んでいる土曜の昼と、すいている平日の朝では、難易度がまるで別。予定を組めるものは、できるだけ人の少ない時間へ。
短時間で切り上げる前提にする。「全部済ませよう」と欲張らない。今日は一件だけ。だめそうなら途中でやめる。撤退は失敗ではなく、作戦のうちです。
逃げ道を先に決めておく。しんどくなったらここへ、という避難場所(改札の外、待合室の外、車の中)を、親が最初に把握しておく。逃げ道があると分かっているだけで、親の心にも余裕が生まれます。あとは、本人が落ち着ける好きな物をかばんに忍ばせておくこと。音がつらい子なら、イヤーマフや耳栓という選択肢もあります。
もうひとつ効いたのが、初めての場所は先に見ておくことでした。建物の前まで行ってみる、入り口だけのぞいてみる。それだけで「知らない場所」が「一度見た場所」になります。当日は、行く前に流れを短く伝える。「電車に乗って、着いたら受付、名前を呼ばれたら診察、終わったら帰る」。順番が分かっているだけで、次男の落ち着き方がまるで違いました。
🗣️ 周囲には、先回りして伝えていい
わが家の定番は、受付での先回り申告でした。病院では毎回、こちらから「自閉症なんです」と伝えてから待つ。
言うのに勇気がいった時期もあります。でも、伝えたあとのほうが、いつも楽でした。スタッフの方が待たせ方を工夫してくれたり、声をかけてくれたり。世の中、冷たい目ばかりじゃなくて、事情が分かれば動いてくれる人も、ちゃんといるんです。
今は、ヘルプマークのように、言葉にしなくても配慮が必要だと伝えられる選択肢もあります。使う・使わないはそれぞれでいいけれど、「伝える手段はある」と知っているだけでも、外出の心細さは少し減ると思います。
💭 「周囲の目」と、どう折り合うか
それでも、視線は刺さります。舌打ちやひそひそ声に、傷ついた日もありました。
「気にしなくていい」と言うのは簡単です。でも、気になるものは気になる。傷つくのは、あなたが弱いからじゃなくて、頑張っている最中に冷たい目を向けられれば、誰だって傷つくからです。
私が自分に言い聞かせてきたのは、ひとつだけ。周囲の目は変えられないけれど、私があの子の味方であることは変わらない。全員に理解してもらうことを、目標にしなくていい。その日を無事に終えて帰ってくる。公共の場での合格ラインは、それで十分だと思っています。
⭐ここが大事!
公共の場がつらいのは、しつけの問題ではありません。人・音・見通しのなさが一度に押し寄せるからです。すいている時間を選ぶ、短く切り上げる、逃げ道を決めておく、先回りして伝える。そして合格ラインは「その日を無事に終えて帰ってくること」で十分です。
🌅 あんなに大変だった子も、成長する
最後にこれだけ。
電車でパニックになっていた次男、スーパーで走り出していた次男、待合室でじっとできなかった次男は——今、中学2年生になりました。あの頃がうそのように、落ち着いて出かけられます。
幼児期の嵐は、小学校低学年にかけて、少しずつおさまっていきました。成長のスピードはその子それぞれだけれど、「ずっとこのままかもしれない」という、あの頃の私の絶望は、外れたんです。
今日も外出でヘトヘトになったお母さんへ。無事に帰ってこられたなら、今日の外出は成功です。あの電車の1時間を「無」で乗り切った私が、10年後にこうして書いています。嵐の季節は、ちゃんと過ぎていきますように——いえ、うちは過ぎていきました。だから、書いておきます。
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